【知っておきたい】AED電極パッドを貼る位置とケース別注意点
いざという時、AEDの電極パッドを迷わず貼れますか?
AEDは、音声ガイダンスに従えば誰でも使えるように設計されており、電源を入れて電極パッドを貼れば、自動で心電図を解析し電気ショックが必要かどうかを判断します。だからこそ、実質的に唯一の手順ともいえる「電極パッドの貼り方」を知っておくことはとても大切です。貼り方に迷わなければ、それだけスムーズにAEDを使用することができます。
本記事では、電極パッドの正しい貼り方について分かりやすく解説します。実際に使う場面で迷わないように、正しい貼り方を今のうちに覚えておきましょう!
1. AEDの使い方
AEDとは、突然の心停止を起こした傷病者(けがや病気で倒れている人)に対して電気ショックを与え、心臓を正常なリズムに戻すための医療機器です。日本では、2004年から一般市民でもAEDを使用できるようになりました。現在では、駅や空港、学校、商業施設など、街中のさまざまな場所にAEDが設置されています。
まずは、AEDの基本的な手順を確認しておきましょう。
- 電源を入れる
- 傷病者に電極パッドを貼る
- 電気ショックを行う
- 心肺蘇生(CPR)を行う
救助中に呼吸を再開しても、再び電気ショックが必要になる可能性もあります。電極パッドは貼ったままで救急隊の到着を待ちましょう。
AEDの詳しい使い方についてはAEDの使い方を、図を交えて丁寧に紹介。をご覧ください。
この記事では、傷病者に電極パッドを貼るときの正しい貼り方や注意点について紹介します。
2. 電極パッドの貼り方と貼る位置
小学生~大人の場合、電極パッドは右胸(鎖骨の下で胸骨の右)と左わき腹(左脇の5〜8cm下)に貼るのが基本です。この位置は、心臓の電気の流れに沿っており、一番心電図が計測しやすい(一番感度がいい)位置とされています。
電極パッドを貼る位置は、電極パッドや袋に描かれたイラストで確認できるようになっています。(※未就学児の場合は3-2. 小さな子どもの場合を参照してください)
上衣を脱がし胸をはだけ、電極パッドはそれぞれ、シワや異物が入らないように注意しながら肌にしっかり密着させて貼りましょう。電極パッドは2枚組が一般的ですが、一体型になっているタイプのAEDもあります。家や勤務先の近くにあるAEDがどのタイプなのか確認しておくと安心です。
また、協力者がいる場合には、電極パッドを貼り付ける際にもできるだけ胸骨圧迫を継続するようにしてください。
- 知っておくと安心
-
日本蘇生協議会のJRC蘇生ガイドラインによると、電極パッドは前胸部 – 側胸部にあてることが妥当であり、代替の位置として、前胸壁(胸の前面) – 背部(背中)も容認されるとあります。(※1)
つまり、2枚の電極パッドを心臓を挟むように貼れば効果があります。基本の貼付位置を覚えておくことが重要ですが、やけど、外傷、ペースメーカーの装着などで貼るのが困難な場合は、左胸と右わき腹や胸と背中に貼ることもできることを覚えておくとよいでしょう。
※1. 参考文献:一般社団法人日本蘇生協議会
『JRC蘇生ガイドライン2020(PDF版)第2章 成人の二次救命処置』
3. 電極パッドの貼り方・貼る位置・注意点をケース別に解説
ここでは、AEDの電極パッドを貼る際に迷いやすいケースや、実際に貼れない、貼りにくいと感じるケースでの対処法を紹介します。子どもや妊婦、ペースメーカー使用者など、状況に応じた正しい貼り方と注意点を事前に理解しておくことで、緊急時に落ち着いて対応できるようになります。
3-1. 電極パッドを逆の位置に貼ってしまったら?
AED使用時に電極パッドを左右逆に貼ってしまったとしても、基本的には問題ありません。左右逆に貼ってしまってもはがさずに、そのまま心肺蘇生法を続けてください。
電極パッドは粘着力が強く、焦ってはがすと使えなくなってしまいます。AEDは一方通行に電流が流れるのではなく、パッド間で電流が往復する二相性となっています。ですので、左右が逆になっても問題はありません。心電図の波形が上下逆に表示される可能性がありますが、電気ショックの機能自体には影響ありませんので落ち着いてそのまま続けましょう。
3-2. 小さな子どもに電極パッドを貼る場合
多くのAEDは、未就学児用電極パッドが入っているか、本体に未就学児用モードの切換スイッチがついています。未就学児用パッドがある場合は優先して使用します。切換スイッチがついているAEDは、未就学児モードに切り換え、音声ガイダンスに従って未就学児・小学生~大人共通パッドを使用します。
未就学児でも、体が大きい場合は大人と同じように、右胸と左わき腹に電極パッドを貼ります。一方、体が小さく、基本の位置に貼ると電極パッドが重なってしまう場合は、胸と背中に貼り、心臓をはさむように配置します。この場合、どちらの電極パッドを胸または背中に貼っても大丈夫です。
もし未就学児用電極パッドがない、未就学児モードへの切換スイッチがない場合、何もしないよりも小学生〜大人用パッド・モードを使用した方が生存の可能性は高まります。近くにAEDがある場合は、ためらわずに使用しましょう。
AEDは小学生以上の場合、小学生~大人モードで使用します。小学生以上に未就学児用電極パッドを使用すると、電気ショックのエネルギーが不足するので使用できません。傷病者が子どもで未就学児か小学生か判断に迷う場合は小学生~大人用パッド・モードを使用するようにしてください。
年齢別の対応について
年齢区分 | 未就学児用パッド・モード | 小学生~大人用パッド |
---|---|---|
未就学児(小学校入学前) | ◎(推奨) | 〇(可) |
小学生~大人 | ×(不可) | ◎(推奨) |
なお、年齢別の対応表についてまとめた表を配布しておりますので、下記よりダウンロードしてご活用いただけたらと思います。
3-3. 女性に電極パッドを貼る場合
女性に電極パッドを貼る場合、ブラジャーのワイヤー部分が電極パッドに触れないように十分注意してください。胸の露出にためらいがあるかもしれませんが、救命が最優先です。ブラジャーの肩ひもをずらして電極パッドを直接素肌に貼り付けることができれば、必ずしもブラジャーを外す必要はありません。
その際に周りに助けを求め、周りの目に触れないように壁になってもらったりするなど、できる限り人目にさらさない配慮も大切です。電極パッドを貼った後は、服やブランケットを掛けても大丈夫です。
女性とAEDについて詳しく知りたい方は【女性とAED】服は全部脱がせなくても大丈夫。訴訟リスクがないことを知ろう。をご覧ください。
3-4. 妊婦に電極パッドを貼る場合
傷病者が妊婦だった場合でも、AEDを使用できます。妊婦が急に倒れた際「電気ショックが赤ちゃんに影響が出ないか」と不安になるかもしれませんが、心停止の場面では一刻も早い心肺蘇生とAEDの使用が母親と赤ちゃんを救うために重要です。
胸が大きい場合は、左電極パッドは乳房を避けて左胸の外側か下部に貼ります。
詳しく知りたい方は妊婦さんにAEDを使用しても大丈夫?知っておくべき注意点と正しい知識もあわせてご覧ください。
3-5. 傷病者がアクセサリーを身に着けている場合
AEDは電気を体に流す装置のため、金属製のアクセサリーがあると電気ショックの効果が低下したり、火傷の原因になる可能性があります。特に、ネックレスのように胸の近くにあるアクセサリーは注意が必要です。可能であれば、アクセサリーは外してからAEDを使用しましょう。外したアクセサリーは救急隊が到着した際に渡してください。
もしうまく外せない場合は、アクセサリーが電極パッドに直接触れないようにできるだけ離してAEDを使うようにしてください。アクセサリーがあることで救命処置に支障が出ないよう、事前に外すことが望ましいですが、緊急時は時間をかけず、まずは速やかにAEDを使用することが何より重要です。
3-6. 傷病者にペースメーカーまたはICD(植え込み型除細動器)が植え込まれている場合
ペースメーカーやICDが埋め込まれている人にもAEDを使うことができます。ペースメーカーやICDの本体は、利き腕の反対側、鎖骨の下約2cmぐらいのところに入れられていることが多いです。(※2)埋め込まれている場合、皮膚が盛り上がっており下に固いものが触れるので分かります。電極パッドを貼る際はその部分を避けて貼りつけてください。
この際、電極パッドを貼る位置に迷って、救命が遅れることのないようにする必要があります。基本の貼付位置に貼れない場合は、2. 電極パッドの貼り方と貼る位置で紹介した、左胸と右わき腹、または胸と背中といった代替の貼付位置を検討しましょう。
※2. 参考:日本心臓ペースメーカー友の会 ペースメーカー関連Q&A
3-7. 傷病者の胸が濡れている場合
胸部が濡れている場合、電極パッドが肌にしっかり貼り付かないだけでなく、電気が体の表面の水を伝わり流れてしまうので、AEDの効果が不十分になります。乾いた布、タオルなどで胸をしっかりと拭いてから電極パッドを貼ってください。
海水浴場・プール・お風呂場などで使用する際は、濡れた衣服は取り除き、電極パッドを貼る部分の水分をしっかり拭き取ります。濡れた床面でもAEDは使用できますが、電極パッドが床の水に触れない事に注意しましょう。
3-8. 貼り薬がある場合
貼り薬や湿布の上から電極パッドを貼ることはできません。添付位置にニトログリセリン製剤や喘息薬などの湿布や薬がある場合は、はがしてください。はがした後に肌に残った薬剤を拭き取り、電極パッドを貼ります。
貼り薬の上から貼ってしまうと電気ショックの効果が減少してしまったり、やけどを起こす可能性があります。
3-9. 胸毛が多い場合
胸毛が多いと、電極パッドが肌に密着せずにAEDの効果が減少したり、やけどの原因となります。できるだけしっかりと密着するように貼り付けます。貼り付けにくい場合は、レスキューセットのかみそりで貼付位置の胸毛をそってください。
4. まとめ
AEDの電極パッドは、右胸と左わき腹に貼るのが基本です。
AEDは、音声ガイダンスに従えば誰でも使えるよう設計されていますが、実際の現場では強い緊張や焦りが伴います。そのため、本記事で紹介したような迷いやすいケースを事前に知っておくことが、落ち着いた対応につながります。いざという時、大切な命を救うために、今のうちから正しい知識と心構えを備えておきましょう。